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最高裁判所第一小法廷 平成6年(オ)898号 判決

静岡県小笠郡菊川町西方五八番地

上告人

落合刃物工業株式会社

右代表者代表取締役

落合錬作

右訴訟代理人弁護士

吉原省三

小松勉

松本操

三輪拓也

静岡県榛原郡金谷町金谷河原三四七番地の八

被上告人

カワサキ機工株式会社

右代表者代表取締役

川崎尚一

右訴訟代理人弁護士

竹内澄夫

右当事者間の東京高等裁判所平成三年(ネ)第二七一六号実用新案権侵害差止等請求事件について、同裁判所が平成六年一月二七日言い渡した判決に対し、上告人から一部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人吉原省三、同小松勉、同松本操、同三輪拓也の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三好達 裁判官 小野幹雄 裁判官 大白勝 裁判官 高橋久子)

(平成六年(オ)第八九八号 上告人 落合刃物工業株式会社)

上告代理人吉原省三、同小松勉、同松本操、同三輪拓也の上告理由

原判決は以下に述べるとおり最高裁判所の判例に違反し、また経験則にも反して本件実用新案権の技術的範囲の解釈を誤り、ひいては理由不備ないし理由齟齬の違法がある。

一、 本件実用新案登録第一五四三三八五号の実用新案登録請求の範囲

1. 本件実用新案登録第一五四三三八五号の実用新案登録請求の範囲の記載は、次のとおりである。

「前方突出部6を形成した一側板1と他側板1′および底板4と上板5とで前後を開口した機筐を構成し、該機筐の一側板1辺りに原動機2、ファン3を搭載し、上記側板の前方突出部6、6間には多数の吐出小管10を設けた風胴7を架設し、底板4前方縁には刈刃8を沿設すると共に、前記側板1の前部には、該刈刃8が露見する切欠部13を形成し、機筐両側には把手11、11′を、又後方には収容袋12を着脱自在に装着してなる、二人用動力茶葉摘採機。」

2. 右の記載から、本件考案の構成要件を分説すると、次のとおりである。

(1) 前方突出部6を形成した一側板1と他側板1′および底板4と上板5とで前後を開口した機筐を構成し、

(2) 該機筐の一側板1辺りに原動機2、ファン3を搭載し、

(3) 前記側板の前方突出部6、6間には多数の吐出小管10を設けた風胴7を架設し、

(4) 底板4前方縁には刈刃8を沿設すると共に、

(5) 上記側板1の前部には、該刈刃8が露見する切欠部13を形成し、

(6) 機筐両側には把手11、11を、又後方には収容袋12を着脱自在に装着してなる、

(7) 二人用動力茶葉摘採機。

3. 本件実用新案の構成要件が右のとおりであることは上告人も認めるところであり、被控訴人製品(以下上告人製品という)が右構成要件の(4)(6)及び(7)を充足することは争いのないところであるが、原判決は、上告人製品が右構成要件の(1)(2)(3)(5)をも充足すると判断した。

4. しかし発明・考案の要旨の認定にあたっては「特段の事情のない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。」とされている(最高裁平成三年三月八日第二小法廷判決、民集四五巻三号一二三頁 昭和六二年(行ツ)第三号審決取消請求事件)。また、明細書の詳細な説明の記載が、発明・考案の要旨の認定に影響を及ぼすことも、御庁の判例とするところである(最高裁平成三年三月一九日第三小法廷判決、民集四五巻三号一〇九頁、昭和六二年(行ツ)第一〇九号審決取消請求事件)。

この二つの判決はいずれも審決取消請求事件に関するものであるが、侵害訴訟における技術的範囲の認定においても、原則的には同じ考え方が適用されるべきである。何故ならば実用新案登録請求の範囲は、出願人が明細書に開示した考案について、専有権を主張し権利として保護を求める部分を第三者との関係において特定し、この範囲外における実施については権利主張しない旨を、明らかにする機能を有するものであるからである。

さらに、実用新案権者は、明細書に開示された考案の範囲において保護を受けられるのであり、これを超えて権利を主張することは許されない。したがって、実用新案登録請求の範囲から技術的範囲を認定するに当っては、明細書の詳細な説明と添付図面を参酌し、その記載を通常の意味に解釈してなされるべきである。この点につき御庁の先例(最高裁昭和五〇年一〇月九日第一小法廷判決集民一一六号二五九頁昭和四九年(オ)第一七五号事件、判例時報八〇四号三五頁)は、実用新案侵害事件について実用新案登録請求の範囲に記載された文言は特別の理由のないかぎり、通常の意味に解釈すべきであるとしている(「結合ピン」とは物体と物体とを結合する棒状のものをいうことが明らかであるとした事例)。

5. ところが、原判決は、これらの先例に反して本件実用新案の技術的範囲の解釈を誤り、実用新案請求の範囲の記載に基づかないでその技術的範囲を定めた違法がある。

以下に詳説する。

二、 構成要件(1)について

1. 本件実用新案の構成要件(1)において、「前方突出部」とは、一側板と他側板および底板と上板とで前後を開口した機筐において、一側板が機筐の前方において突出している部分を指すと解すべきである。

これに対し原判決は、「前方突出部」とは「側板が風胴を架設するために、その上部において刈刃より前方に突出して形成された部位を称するものとして用いられているものと認めるのが相当である」と認定している。

2. しかしながら、本件実用新案登録請求の範囲の記載を通常の意味に理解した場合、原判決のような認定をすることは困難である。

そもそも、本件実用新案登録請求の範囲においては、冒頭に「前方突出部6を形成した一側板1と他側板1′および底板4と上板5とで前後を開口した機筐を構成し」と記載されている。

そして構成要件(5)においては、「前記側板1の前部には」切欠部を設けるとなっている。原判決は「前部」と「前方突出部」を区別しており(原判決五一頁六行以下)、実用新案登録請求の範囲の記載においても「前方突出部」と「前方」を区別しているので、「前方突出部」は「前方」から更に突出している部分である。したがって、実用新案登録請求の範囲の記載によると、機筐があって、その一側板の前方に突出部が形成されている構造になっていると解するのが自然な解釈である。そこで仮に刈刃から前方に位置する部分が「前部」であってとしても、その全部が前方突出部ではない。

したがって、原判決はこの点につき実用新案登録請求の範囲の記載に基づかないで技術的範囲を認定したものであり、また一方では自ら「前部」と「前方突出部」を区別しながら他方では刈刃より前方に位置する部分全体を前方突出部としているのであって、理由齟齬の違法があると言わざるを得ない。

3. 次に「前方突出部」について、実用新案登録請求の範囲の記載からその意味が明らかでないため、特段の事情があるものとして考案の詳細な説明を見ても、「前方突出部」を原判決の認定したように解することを示唆する記載はない。逆に、本件実用新案の考案の課題とした従来品の欠点について、「機筐の一側板bが風胴cを架設する為に前方に著しく突出」する旨が記載されている(公報2欄一〇~一二行)。

また明細書添付第四図の「本件考案に係る摘採機の若干斜め方向から見た側面図」を見ても、前方突出部を示す符号6は、刈刃の前方部分の更に前方の、風胴7を支持する部分に付されている(第一参考図参照)。そして同図では湾曲した刈刃が示されていることからしても、刈刃の位置を前後の基準とすることは相当でない。したがって詳細な説明と図面を参照すれば、原判決の認定はますます理由がない。

4. なおこの一側板の「前方突出部」が「筐体部分から前方に張り出している部分」を意味することは、本件実用新案の目的効果からも明らかである。すなわち本件実用新案の明細書をみると、本件考案が改良の対象としている従来品について、「機筐の一側板bが風胴を架設する為に前方に著しく突出し、底板d前辺に沿って位置する刈刃eは、横方向から全く見えざるものであった」(公報2欄一〇~一三行)と記載されている。そして本考案は、これによる危険性に鑑み「少なくとも動力部を搭載する側の側板に刈刃が露見する切欠部を形成し」たものである(公報2欄二二~二四行)。そしてこれによって「作業者にとって刈刃と畝上面の適合具合がほぼ自然な姿勢のままで監視できる」ことになる(公報3欄二二行~4欄二行)という効果を奏することになるのである。すなわち本件実用新案は、風胴を架設するために一側板が前方に突出する関係上視界がさえぎられる構造の摘採機において、刈刃が目視し得るよう一側板の前部に切欠部を設けるというものであり、とのことからしても一側板の「前方突出部」とは、風胴を架設するために、一側板の前方において突出した部分と解されるのである。

5. すなわち構成要件(1)において一側板に「前方突出部」を形成することとした技術的理由は、右に指摘した本件明細書の記載と図面からして、そこに風胴を架設するためである。そしてその場合風胴は筐体よりも前方に位置するため、風胴を一側板に架設するためには、一側板の前方が更に突出していなければならないのである。

これに対し原判決は、「側板が風胴を架設するためにその上部において刈刃よりも前方に突出して形成された部位を称する」と認定しているが、これは前述のとおり「前方突出部」と「前部」を区別していないばかりでなく、機筐において上板が底板よりも巾広の場合には、一側板が機筐より前方に位置していなくても「前方突出部」があるということになって、構成要件(1)の記載とは通常の意味において相容れない結果となる。

したがって原判決の認定は誤りである。

三、 構成要件(2)について

1. 原判決は本件実用新案の構成要件(2)において、原動機及びファンが機筐の一側板の外側に垂直に搭載されるものに限定する記載がないことを理由として、上告人製品の構造も構成要件(2)に該当するとしている。

しかし本件実用新案は、構成要件(3)において、「側板の前方突出部66間に」「風胴7を架設」することを要件としているのであるから、風胴7は一側板にまで達していなければならない。したがって風胴に接続するファンの風出口は、一側板の外側に位置しなければならないことになる。

2. この点上告人製品は、ファンが一側板の内側に位置し、風出口も一側板の内側に位置している。第二参考図は第一審判決別紙製品目録(八)の第一図の原動機とファンの部分の図面であるが(この状態は甲第四号証の七の写真(2)(5)-〈1〉に示されている)、本件実用新案の構成(2)は、このような構成を含まないと解すべきである。

よってこの点についての原判決の認定は、誤りである。

四、 構成要件(3)について

1. 本件実用新案の構成要件(3)において、「側板の前方突出部間に………風胴を架設」するとは、一側板と他側板の突出部の間に風胴をかけ渡して設置することであると解すべきである。

これに対し原判決は、「風胴が側板間にかけ渡されて設置されていて側板が何らかの形でその支持に関与していれば足りるのであって……………本件考案における『架設』は風胴が側板自体で直接的に支持されているものに限定されず、他の部材を介して側板に間接的に支持されているものを含むものと解するのが相当である」と認定している。

2. しかし、まず「側板の前方突出部間に………風胴を架設」するというためには、風胴が一側板から他側板まで達している構成であることが必要である。

したがって第二参考図で示される上告人製品のように、両側板の間隔よりも風胴が短かく、風胴が一側板に達していない構造のものは、そもそも構成(3)にあたらない。

3. 次に、原判決の右判断は、「架設」の通常の意味に反するものである。即ち「架設」とは、「かけ渡して設置すること」であり、柱や梁や支持腕のような支持する部材があって、これによって端部を支持して設置することである。

この点につき原判決は「右認定事実によれば、被控訴人製品において、風胴7は、直接的には腕杆53あるいはファン3の風出口31と他側板の前方突出部6との間に架設支持されているが、被控訴人製品(一)においては、腕杆53が固定された支持枠51は一側板1の広幅状部分11に固着され、また風胴7を連結するファン3は連結部材によって広幅状部分11に接続されているのであるから、風胴7は、腕杆53及び支持枠51、並びにファン3を介して間接的に一側板1の広幅状部分11に支持されているものと認めるのが相当であり、被控訴人製品(二)ないし(八)においては、ファン3は一側板1の広幅状部分・等幅状部分11と連結部材によって接続されているのであるから、風胴7は、ファン3を介して間接的に一側板1の広幅状部分・等幅状部分11に支持されているものと認めるのが相当である。」としている(原判決四三頁六行~四四頁六行)。

しかし、右認定のうち、上告人製品(七)(八)については、ファン3は一側板に取付けられておらず、原判決添付の被告製品目録図面七、八に示されるように、支持枠51に取付けられている。そしてその位置は、一側板の上部ではなく(甲第四七号証の七の写真(3)(4)(5)参照)、一側板とは離れた位置である。

したがって、上告人製品(七)(八)についての右の認定自体が誤りであるが、そもそも原判決の考え方をとると、一側板は他側板、底板、支持枠と共に一体となって機筐を構成しているのであるから、風胴を機筐に取付けるに当って、どこに取付けても間接的に一側板に取付けたことになる。したがって、原判決の解釈によれば、「機枠に風胴を取付け」ということと同じことになり、構成要件(3)において、「前記側板の前方突出部6、6間には………風胴を架設し」として、取付け箇所と取付けの態様を特定していることを無視することになる。

よって、本件実用新案登録請求の範囲の記載を無視した認定といわざるを得ない。

4. また原判決の右の認定は、本件実用新案において一側板に前方突出部を設けたことの技術的理由を無視するものである。

構成要件(1)についての項で述べたとおり、一側板に前方突出部があるのは、風胴を一側板に架設するためである。もし原判決の認定のように一側板に間接的に支持されることであればよいのであれば、一側板に前方突出部を設ける必要はない。

そもそも、本件構成要件(3)においては「前記側板1、1間に」ではなく、「前記側板の前方突出部6、6間に」となっている。このことからも、本件実用新案においては側板の前方突出部の間に直接架設することが要件となっていると考えるべきであって、そうでなければ側板に前方突出部を設ける技術的理由も、また請求の範囲の記載に側板1、1間に架設するではなく「前方突出部6、6間に架設する」と記載した意味も、なくなってしまうのである。

このことからしても、原判決の右認定は本件実用新案登録請求の範囲の「前方突出部6、6間に………風胴を架設し」という記載を無視したものであるといわざるを得ない。

五、 構成要件(5)について

1. 本件実用新案の構成要件(5)において「上記側板1」とは前方突出部を形成した側板を意味し、「該刈刃8が露見する切欠部18」とは、本来側板があって視界を遮ぎっている部分を切欠くことを意味している。

これに対し原判決は、上告人製品について一側板1の等幅状部分・広幅状部分11の下辺部分・下端部分14と前方辺9によって逆L字状に凹部が形成されていると認定し、「被控訴人製品においては横方向から見て刈刃8を監視することができることが認められる」とし、「一側板1の前部に刈刃8が露見する切欠部を形成しているものと認めるのが相当」としている。そして上告人の主張に対し、「構成要件(5)から明らかなように、本件考案において『切欠部』が形成されるのは、側板1の『前部』であって、『前方突出部』ではないから、被控訴人の右主張はその前提において失当である。」とし、「構成要件(5)は、『刈刃8が露見する切欠部13』とのみ規定しているのであって、切欠部が刈刃の後方までえぐれていることまでを要件としているものではないから、被控訴人の右主張は採用できない。」としている。

2. しかし構成要件(5)における「上記側板1」とは、「前方突出部6を形成した一側板1」のことである。そして原判決が切欠部に相当するとする「等幅状部分・広幅状部分11の下辺分・下端部分14と前方辺9によって逆L字状に凹部が形成されている」部分は、一側板の前端まで達している。そして原判決の認定によればこの逆L字状部分は一側板1の前部に形成されているというのであるから、原判決の認定によっても「前方突出部」が存在しないことになる。したがって原判決の認定は、「前方突出部」と「前部」とを区別した点では実用新案登録請求の範囲の記載に沿ってはいるが、その認定によれば「前方突出部」が存在しなくなることを見落としている。

3. 次に切欠部の形状であるが、構成要件(5)においては「該刈刃8が露見する切欠部13」となっている。すなわち単に「目視し得る」ではなく「露見」する状態に切り欠かれていなければならない。「露見」とは露出して見えることであるが、実用新案登録請求の範囲に記載された「露見」ということの意味を確認するために明細書に添付された図面を参照すると、本件考案に係る摘採機を若干斜め方向から見だ側面図である第4図(第一参考図参照)には、刈刃の後方までえぐれ、刈刃が露出して見える状態が示されている。しかるに原判決は、構成要件(5)における「露見」を単なる目視と同義に解し、実用新案登録請求の範囲の記載に基づかない解釈をしたものである。

なお、上告人製品の右逆L字状部分は、本来一側板が存在した部分を切欠いたものではなく、支持枠及び底板と一体になって機筐を構成するに当り、軽量化のために側板を強度的に必要な最小限の形状としたものである。

六、 原判決の技術的範囲の認定の誤り

1. 本件実用新案登録請求の範囲の記載と本件実用新案の構成要件は、一の項で述べたとおりであるが、その明細書の詳細な説明の記載と、添付図面に第2図及び第3図として示されている従来機の図面からして、本件実用新案の構成要件のうち(1)(2)(3)(4)(6)(7)は従来機に見られる構成であり、考案として新規な点は構成要件(5)にあるといえる。

しかし、構成要件(1)(2)(3)(4)(6)(7)についても、それが実用新案登録請求の範囲に考案の構成に欠くことのできない事項として記載されている以上、それは考案の必須の要件である。したがって本件実用新案は構成要件(1)(2)(3)(4)(6)(7)の構成を有する茶葉摘採機において、(5)の構成としたことを特徴とするものであるということができる。

ところが原判決は、右の構成要件のうち(1)(2)(3)について実用新案登録請求の範囲の記載に基づかない解釈をし、技術的範囲の認定を誤って上告人の製品が(1)(2)(3)の構成を具備し、(5)の構成を充足していると判断したものである。

2. 原判決の技術的範囲の認定が誤りであることは以上に述べたとおりであり、被上告人の製品は本件実用新案の技術的範囲に属するものではない。

第三参考図は、原判決添付図面の各図の(ロ)における一側板部分(葉寄せ金具41と刈刃保護金具42を除いてある)方向から見た状態を図示したものであるが、上告人の製品は一側板1、支持枠51、51底板4、他側板1′によって機筐に相当する機枠を構成している。そして一側板1の上部は支持枠51、51の巾しかなく、機枠から前方に突出している部分は存在しない。

さらに第一審判決添付図面に示されるように、風胴7は他側板1′の反対側ではファン3の風出口31に直接取付けられており、一側板には取付けられておらず、一側板の位置に達してもいないのであって、一側板と他側板の前方突出部間に架設されていない。この点は第一審判決が正当に認定しているとおりである。

したがって上告人の製品は、本件実用新案とは対象となる茶葉摘採機の構造が異なるのであり、一側板の外側にファン3の風出口31を設け、風胴を一側板の前方突出部で支持する関係上、刈刃を見易くするために、一側板1に切欠部を設けて刈刃を露見する必要があるという技術的課題を有しないものである。

そして第三参考図に示されるとおり、「等幅状部分・広幅状部分11の下辺部分・下端部分14と前方辺9によって逆L字状に凹部が形成されている部分」は前述のとおり軽量化のために一側板1の大きさを最小限度にするという要請から生じたものであり、本件実用新案における切欠部とは目的効果が異なっている。

3. そして、一側板の刈刃前方部が斜上方に傾斜し、刈刃が側方から目視し得るようになっている構成は、原審において提出した平成四年五月一四日付被控訴人証拠説明書添付一覧表に説明したとおり、多くの公知例に見られるところであって、刈刃を露出させるためにこのような傾斜部の一部を切欠いたものが本件実用新案にいう「切欠部」にほかならないのである。

4. 以上の次第であって本件実用新案の技術的範囲の認定を誤り上告人の製品がこれに属するとした原判決は破棄されるべきものなので、上告に及んだ次第である。

以上

参考図の説明

第一参考図 本件実用新案明細書添付図面第四図の拡大図

第二参考図 第一審判決別紙被告製品目録(八)の第一図の部分図

第三参考図 原判決添付図面の(ロ)の一側板の形状と他側板及び風胴の位置関係を示す図

第一参考図

〈省略〉

第二参考図

〈省略〉

1 側板

2 原動機

3 ファン

31 風出口

7 風胴

第三参考図の各図

一、 被告製品目録(一)第二図差換分(ロ)のもの

二、 被告製品目録(二)第二図差換分(ロ)のもの(ダイヤフラムタイプフロートタイプ共通)

三、 被告製品目録(三)第二図差換分(ロ)のもの(同右)

四、 被告製品目録(四)第二図差換分(ロ)のもの(同右)

五、 被告製品目録(五)(六)第二図差換分(ロ)のもの

六、 被告製品目録(七)(八)第二図差換分(ロ)のもの

第三参考図ノ一乃至六

符号

1 一側板

4 底板

8 刈刃

9 前方辺

11 等幅状部分・広幅状部分

14 下辺部分・下端部分

51 支持枠

1' 他側板

7 風胴

10 吐出小管

第三参考図ノ一

〈省略〉

第三参考図ノ二

〈省略〉

第三参考図ノ三

〈省略〉

第三参考図ノ四

〈省略〉

第三参考図ノ五

〈省略〉

第三参考図ノ六

〈省略〉

〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉実用新案出願公告

〈12〉実用新案公報(Y2) 昭58-31479

〈51〉Int.Cl.3A 01 D 46/04 識別記号 庁内整理番号 7704-2B 〈24〉〈44〉公告 昭和58年(1983)7月12日

〈54〉二人用動力茶葉摘採機

〈21〉実願 昭52-164161

〈22〉出願 昭52(1977)12月6日

〈55〉公開 昭54-88372

〈43〉昭54(1979)6月22日

〈72〉考案者 増田進

静岡県榛原郡相良町相良44番地の1

〈71〉出願人 カワサキ機工株式会社

静岡県榛原郡金谷町金谷河原347の8

〈56〉引用文献

実開 昭50-26057(JP、U)

〈57〉実用新案登録請求の範囲

前方突出部6を形成した一側板1と他側板1および底板4と上板5とで前後を開口した機筐を構成し、該機筐の一側板1辺りに原動機2、フアン3を搭載し、上記側板の前方突出部6、6間には多数の吐出小管10を設けた風胴7を架設し、底板4前方縁には刈刃8を沿設すると共に、前記側板1の前部には、該刈刃8が露見する切欠部13を形成し、機筐両側には把手11、11′を、又後方には収容袋12を着脱自在に装着してなる、二人用動力茶葉摘採機。

考案の詳細な説明

本考案は二人用茶葉摘採機の構造に関し、特に刈刃前方から送風する為に機筐前縁部に風胴を装着した構造のものにおいて、作業者がその歩行操作中に、体を無理な姿勢にすることなく刈刃のほぼ全面を監視することができるようにしたものである。

この種摘採機を用いての作業は、第1図に見る如く、茶畝の左右半分づつを往復して行なうものである。つまり、弧状の刈取面Aを畝上面の片方に沿わせ、二人の作業者が把手a、a′を持つて進行させ、該畝の終端にて今度は他の片方の上面に沿わせて進行するものである。この作業上の重要な注意点の1つは、畝上面の頂辺(同図矢印イの部分)に段差を残すことなく整然と一様に摘採する事である。これが段差を残してしまうと、摘採した芯葉に大小、長短の形状ムラを生じ、葉切れ、こま切れをして折角の原葉を傷め、後の製茶加工にも様々な弊害をもたらすばかりか、後の整枝作業が面倒になり、外観も宜ろしくない。ところが、従来のこの種の摘採機は、第2図に示すとうり、機筐の1側板bが風胴cを架設する為に前方に著るしく突出し、底板a前辺に沿つて位置する刈刃eは、横方向からは全く見えざるものであつたすなわち、把手を持つた作業者が自然な体勢をした際の視線は矢印ロの位置であり、これでは刈刃eが見えない為、結局、矢印ハの視線になるまで作業姿勢を崩さざるを得なかつた。この姿勢は第3図に示す様に、中腰で進行方向に後向きであり、しかも相当後倒しの姿勢であつて、その上腕は機体を持ち上げるような、極めて危険、苦痛な姿勢を強いられるものとなる。

本考案は以上の重大な危険性に鑑み、少なくとも動力部を搭載する側の側板に刈刃が露見する切欠部を形成して、自然な姿勢のうちに、良好な摘採作業ができるようにしたものである。その構造を第4図にて説明する。1は動力部としての原動機2フアン3等を搭載する側の一側板で、1′はそれに対向する他側板、4、5は夫々茶畝上面に合せた弧状の底板と上板で、この側板1、1′、底板4、上板5をもつて前後を開口した機筐を構成する。6,6は側板の前方突出部で、この間に、フアン3と接続する風胴7を架設する。8は底板4の前方縁に沿つて設けた刈刃で、その先端は、前記側板1′,1の前方辺9とほぼ同一線上に位置する。10は、風胴7から分岐した多数の吐出小管で、刈刃8付近へ指向させる。11は動力部側の把手、11′は他側の把手である。12は機筐後方に着脱自在に装着する収容袋である。13は前記側板1に形成した切欠部で、該切欠部から刈刃8が見える程度の大きさでよい。なお、図示実施例では、直接側板1を切欠いて切欠部13としたが、適宜大きさののぞき穴を穿設して切欠部としてもよい。

そこで二人用の作業者が畝をはさんで向き合い、把手11、11′を夫々持つて前述の様に歩行進行すれば、刈刃8で剪断された芯葉は風胴7からの圧風で機筐後方へ吹き飛ばされ、収容袋12へ次々と収納されてゆく、その進行の際、および復路における進行の際、把手11を持つた作業者は、従来の如き不安定・危険な姿勢をとるまでもなく、ほぼ自然に機体を持つたままの姿勢で、側板1の切欠部13から刈刃8を常に監視できるから、刈り込みの深浅、および復路時の畝頂辺の一様性が瞭然に目視できるわけである。

なお、図示例においては側板1にのみ切欠部を形成したが、必要に応じて他側板1′にも同様に形成すれば宜い。

以上述べた本考案によれば、その構造は極めて簡単であるが、比較的重い(16-20kg程度)機体を持ちながら狭い畝間を歩行する作業者にとつて、刈刃と畝上面の適合具合がほぼ自然な姿勢のままで監視できることになりその安全性、疲労度が向上し、しかも一様な芯葉を摘採できる。特に、この摘採作業を、婦女子、老人等が行なわう時は、本考案の効果は多大であり、又、樹丈の高い成木園においても、あるいは樹丈の低い幼木園においても、その刈刃の監視が著るしく容易となる。その上、本考案では切欠部分だけ材料が少なくて済むので、1gでも軽量化と、凌ぎを削つているこの種の作業機にあつては、誠に好都合である。

図面の簡単な説明

第1図は二人用摘採機による茶葉の刈取状態を示す正面図、第2図は従来機の概略側面図、第3図は従来機による作業姿勢を示す側面図、第4図は本考案に係る摘採機の若干斜め方向から見た側面図である。

1……一側板、1'……他側板、2……原動機、3……フアン、4……底板、5……上板、6……突出部、7……風胴、8……刈刃、9……側板の前方辺、10……吐出小管、11、11'……把手、12……収容袋、13……切欠部。

第1図

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第2図

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第3図

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第4図

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実用新案公報

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